滅びた都

その昔、まだ僕が天上にいたころ。ある地上人が、海底にも都はあると言って、幼い皇帝を道連れ自殺に巻き込んだらしい。

迷惑な話だ。自分の都合で、判断力のない子供を殺すとは。

しかも、ここには、大きな誤解がある。

海底に、都はないのだ。

正確に言おう。海底には世襲君主がいない。だから、普通の都市ならまだしも、君主のおわす都はない。以上だ。

さて、海底にも普通の町ならある。

僕はその日、珍しく、深海真珠をもって出かけた。目的は、地上通貨との兌換。

どうしても、天上に支払いをしなければならないのだ。おろかなことに、天上の人は、真珠より地上通貨が欲しいのだという。

お手製のバザーには、いろんなものが並んでいた。

海底の住人で混雑する街並みを抜けて、広場へ向かうと、賢者カイロンと長老のニドマキエビが、深刻な顔で話し込んでいた。

おお、天上人か。お前も話に加われ。

何かあったのですか?

カイロンが近づいてきて、小声で話しかけてきた。

巨大遺跡が見つかった。海底にも、過去、世襲君主がいた可能性がある。

なんですって?

耳を疑う。

海底は世襲制に向いた環境ではない。

地上でのホモサピエンスのような絶対的な勝者がいない。

どんなに富をかき集めても主人と奴隷の関係が成立するほど豊かな場所でもない。

それなのに、巨大遺跡が見つかるなんて

富の蓄積は、海底の場合、地上より危険だ。流動性が乏しい世界で、富や権力が集中したら、ろくなことにならない。

地上のような、想像と破壊にはならず、ただの破壊にしかならないと、分かっているのだ。

長老も深刻な顔をしている。

あんなものを見たら、海底でも、独占欲や支配欲にかられるやつが出るかもしれん。今までの海底の常識を超えた、豪勢な生活ぶりが想像できるよ。

カイロンが応じる。

あれは破壊すべきだ。景気循環も、均衡の概念も知らなかった海底で、あんなものを突如、見せてはならん。人間の世を知っている君なら分かるだろう?

うなってしまう。

宝は黒銀ですか?

長老が左右のヒゲでソウダのジェスチャー

黒銀は、地上の白銀に相当する物質。暗黒の金属で、美しくて、希少価値がある。真珠と違い、貨幣に使いやすい。なんといっても、毎日が白夜の海底では、悪魔的に貴重だ。

常識では、たくさん取れるものではないと思われていた。それが地上の金銀のように流通できるという実例があるとしたら

カイロンが、たたみかけてきた。

で、どうやって、遺跡を破壊すれば良いと思う?

遺跡の破壊はおおごとです。黒銀だけ溶かす方法はないか、考えてみます。

そんなことができるか?強酸の王水にも、強アルカリの奴隷水にも、びくともしないやつだぞ。

イデアはあります。とりあえず、試しますよ。

しばらくして、僕は、ふたりと出かけた。口がかたいやつが良いという理由で選んだ、カタクチナマコの群れに重機を引かせて。

遺跡は確かに、都とよぶにふさわしい大きさだ。

まるでそれは、天上の都のようだった。そう、自分たちは生産力が低いくせに、地上からの富で栄えていた都に。

ぼくらは、すぐに宝物蔵へと入りこみ、放斜線を照射していく。電磁波級でもない、粒子級でもない、斜め上の放射線

このあたりのチューニングは、ネクタリネとアンニナ姉妹の活躍で、完璧だ。

ふたりが天上からくすねてきた文書で、有毒な水溶性物質や半減期の長い重金属の発生は、微小に抑えている。

黒銀は、みるみるうちに悪魔的な輝きを失い、灰のようなつまらないものに化けた。数年ももたず、形を失うだろう。多少の光を出しても、海底では誰も気がつかない。

長老が言う。

これで大丈夫だ。念のため、ハッタリでも良いから、気軽に出入りさせないようにしておく。

僕らは、長老お手製の結界をとりつけ、遺跡を跡にした。

結界といっても、ヒモに、札をつけただけのものだった。

人、出没注意。

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